軽佻な野望 - Cthulhu Scenario Storage|クトゥルフシナリオストレージ

軽佻な野望

【このシナリオについて】


シナリオ傾向:シティ、現代
推奨人数:2人~
戦闘:有り
推定プレイ時間:2~3時間
難易度:ふつう
システム:クトゥルフ神話TRPG

【あらすじ】

探索者は気づくと病院で目を覚ます。話によると、当然噴き出した白い煙に巻き込まれ意識を失っていたそうだ。
体に異常はないものの、大切にしていたものが盗まれていることに気がつく。
盗まれたものを取り戻すため調査を始める探索者だが、その裏にある事件に気づくことになる。

【シナリオについて/舞台設定】

先祖返りしたヘビ人間である辰森は、ヘビ人間が支配する世界を取り戻そうと考えている。
一族に残された書物を読み解き、かつてヘビ人間が持っていた摂取した者をを意のままに操る支配血清の製法を身に着けた。
そして、材料の調達と実験のため近場にあった盆町に人間として紛れ込んだ。

一族に残っていた材料で作った僅かな支配血清を用いて、チンピラの長井 圭太を手駒にした辰森は、支配血清の材料調達と実験を急速に進めていく。
辰森はこのまま覆盆町の支配できると確信していたが、優秀な頭脳を持つが人間への理解が薄い彼は軽率ともいえる行動を幾つもとっていた。
探索者達はその尻尾をつかみ、辰森の野望を打ち砕くことになる。

【資料】

ヘビ人間 基本189P
ヘビが直立しているような形をしている。ヘビの頭とうろこがついているが、2本の腕と2本の足を持っている。
魔術や化学、特に毒薬の調合に長けていた。
人間によって滅ぼされ、生き残りは退化して小人のようになったものが殆どだが、
退化する前の強力だった姿に先祖返りしたヘビ人間もいる。
そういった者は普通の人間そっくりに見えるようになる幻覚の呪文を使って人間社会に混じることができる。

支配血清 基本200P
微かにラズベリーのような味がする無色の血清。
摂取した者は〈幸運〉に成功しない限りヘビ人間に動かされやすくなる。
犠牲者は自分自身や深く愛するものの生命を危険にさらすこと以外ならヘビ人間のためにどんなことでもする。
血清は摂取してから1D10+10日後に効果が失われる。

NPC
辰森 18歳 先祖返りしたヘビ人間
ヘビ人間達の隠れ家で育った。隠れ家の中では唯一の完全な先祖返りで、明晰な頭脳を持つ。
ヘビ人間が支配する世界を取り戻そうと考え、かつてヘビ人間が有していた強力な毒物の知識を収めている。
明晰な頭脳を持つが、狡猾とは言えない。経験が浅く、他者を理解しようとしない。人間社会に潜み続ければいずれボロが出るだろう。
STR11 CON11 SIZ11 INT17 POW13 DEX13 HP11 SAN0/1D6
武器
噛みつき 35% 1D8+毒(POT11)
1ポイントの装甲

長井 圭太 20歳 チンピラ
盆町に住む男性。定職につかず、非合法な方法で金を稼いで暮らしている、あまり頭が良いとは言えない粗雑な男で、見るからに悪そうな顔。
欲望に忠実だが、咄嗟の悪知恵は働き、自分に対する悪意に対しては敏感に気づく優秀なチンピラ。
辰森に支配血清を飲まされ従っている。種族の壁か、頭の出来が違うせいか、辰森の命令を十分に理解していないことが多い。
ここ数日は支配血清の効果が失われつつあり、辰森の想定外の行動をとることが増えた。
STR15 CON15 POW8 DEX12 APP8 SIZ18 INT9 EDU9 HP17 DB+1D6 SAN40 幸運40 アイデア45 知識50
キック 60%、マーシャルアーツ 60%、目星 60%、聞き耳 60%、言いくるめ 50%、心理学 50%

【導入】

シナリオの都合上、探索者はもし盗まれると必ず取り戻したくなるような大切なものを持ち歩いていることにしてください。
※盗まれたものを取り戻すことが導入時のモチベーションになるので、「心」とか「人」みたいなものは避けてください。
このシナリオは、辰森が長井に睡眠効果を持つ煙幕を実験してくるように命じられたところから始まる。
これは支配血清を調合するために必要な薬の一部であることにする。
辰森としては「ばれないようにやれ」と伝えたので証拠も残さず目立たぬように極少数の人間に実験するだろうと考えていたが、
長井は現場に証拠を残し、昏睡した被害者が発見されるような形で行ったほか、被害者から金目の物を盗む。
探索者はこの実験に巻き込まれることになる。

探索者は病院の一室で目を覚ます。周囲には、同じように今目覚めたであろう人間が体を起こして辺りを見回している。
※発生現場ごとに目覚める時間を多少ずらしてもよいと思います。現場については後述の「事件現場」を参照してください。
当たりを確認したり看護師を呼ぶなどして状況を把握すると、次のことが分かる。
・探索者達と病室にいた他数名は集団で意識を失っているところを発見され病院に搬送された
・数時間意識がなかったが身体に異常はなく、簡単な検査後何も見つからなければすぐに退院できる
・所持品はほぼそのままだが、財布と「大切なもの」が無くなっている
目覚めた後は異常がないか簡単な検査が行われる。何も異常は見つからずすぐに退院できる。
検査時の医者の話によると強力な睡眠薬による昏睡状態だと思われるが、薬の種類など詳細は不明。
警察は薬物が使われた確証もないので事件性なしとして動かない。
物が無くなっている件は調査すると答えるが、探索者は落とし物レベルの扱いだと感じるだろう。

【事件現場】

大切なものが無くなっていることに気づいた探索者は勿論探そうとするだろう。
事件現場は、探索者の職業や設定によって適切に決定するものとする。
大抵は、あまり人目がなく誰でも入ることができるような路上や店などになるだろう。

現場は探索者達が一堂に会することが不自然な場合は複数あることにする。
現場からは以下3つの情報が入手できるが、現場が複数ある場合は情報を分散させると自然だろう。

■昏睡時の目撃情報
事件現場の近くにいる人間に聞き込みを行うと、探索者達が昏睡した瞬間を目撃した者がいる。
目撃者は、マスクとサングラスで顔を隠した大柄の男が何かを地面に転がしたかと思うと、
約10mほどの範囲で突然白い煙が噴き出し、10秒ほどして煙が晴れると煙の中にいた人間は皆倒れていたと話す。
その後は危険を感じて離れていたり、救急車を呼ぶため目を離していたりしており、それ以上は何も見ていない。

■溶けたプラスチック製の容器
熱で溶けたような細長いプラスチックの容器が事件現場に転がっている。
中に入っている何かが燃えたようだと分かる。
適切だと思われる技能に成功すれば、これは何らかの煙を出す簡易の発煙筒のようなものだったと分かる。

■窃盗の目撃情報
探索者達が現場を調査していると、少し派手な格好した若い女性の2人組が、こちらを見てニヤニヤしていることに気づく。長井による窃盗の目撃者である。
彼女らはこそこそと何かを話しており、〈聞き耳〉に成功すれば「長井君にやられた人達じゃね(笑)」などと聞こえる。
しばらくすると、ニヤニヤしながら「何か盗まれて困ってるんですかぁ(笑)」と話しかけてくる。
彼女らに対して暴力的な態度をとると、慌てて「私たちは関わっていない」「現場を見たので教えてあげようと思っただけ」などと話す。
彼女らは以下のことを話す。場合によっては、小ばかにしながら話したり、対価を要求したりする。
・ここらへんに倒れている人たちに長井が近づいて財布等を盗んでいた
・サングラスとマスクで顔を隠していたが、あの体格と髪型、服装なら長井で間違いない
・声をかけたところ、「黙って消えろ!」と怒鳴られたのでむかついた。誰かに長井をシメてほしい

また、長井の人物像について以下のことが聞ける。
・長井はこの盆町に住む人間で、恫喝や盗み、ヤクの販売などで稼いでいる
・恐ろしく腕っぷしが強く、頭は悪いが勘は良いので誰も手出しできない
・ここ2週間ほどはあまり悪さはせず、ドラッグストアやホームセンターに何度も現れ色々と買い込んでいたりとよくわからない行動をしていた
話を聞くことで、長井の特徴の他、「長井の自宅」「近頃現れるドラッグストア、ホームセンター」「ヤクの販売場所」が分かる。
それぞれの場所については「長井を探す」を参照。

【長井を探す】

事件現場から集めた情報を基に、探索者達は長井を探し始めるだろう。
長井は盗んだものを常に持ち歩いているため、どこかで彼に会う必要がある。
彼は辰森が必要とする薬の調合のための材料や器具を定期的に買い集めているほか、
ここ数日は資金不足になりつつあるため資金の調達も行っている。資金の調達は派手な方法だが、辰森はまさか堂々と犯罪行為を行っているとは想像もしていない。

■長井の自宅
長井はマンションの一室で暮らしている。金を持っているのか立派なマンション。
長井はここ2週間ほど帰っていない。住民からの聞き込みや郵便受け様子等から帰っていないことを察せる。
もしうまく長井の部屋に入ったとしても、盗まれたものは無い。部屋はあまり片づけられておらず散らかっている。
長井の犯罪の証拠などはいくつか見つかるかもしれない。これは長井との取引の材料になるだろう。

■ドラッグストア、ホームセンター
店員などに聞けば、長井がほぼ毎日訪れていることが分かる。
購入するものは食料品や生き物、薬、様々な器具などで、関連性はあまり見受けられない。
〈薬学〉に成功すれば、かろうじて、何かの薬を調合してるのではと推測できる程度である。
※ヘビ人間が独自の薬物を製作するために使用するものなので、その意図をくみ取ることは難しいです

しばらく張り込んでいれば、辰森に命じられて店に訪れる長井を見つけることができる。

■ヤクの販売場所
長井は稼業の一つとして、非合法か入手困難な薬の販売を行っている。入手元はヤクザであったり、気にいらない者から奪ったりと様々である。
その場所は入り組んだ路地の先にぽつんとある空き地で、たいていは誰かがいて違法な薬物を販売している。
ここを訪れるものは大抵は地理をうまく把握していて、何かあれば路地を利用して逃げていく。
売人やその客に話を聞くと、長井は時折ここに現れて手に入れた薬を捌いていることが分かる。
ここ2週間ほどは現れていないが、少し前に長井に痛めつけられた様子の客が薬を買いに来ていたので、しばらくしたら長井が現れるのではと教えてもらえる。
売人たちは長井を恐れているようで、長井が現れる気配を感じると皆いなくなる。

しばらく張り込んでいれば、ヤクを売りに来た長井を見つけることができる。長井は相場以上の値段で強引に売りつけつつ、ついでに盗んだものも客に売りつけようとする。

【長井から物を取り戻す】

盗まれたものを取り返すには長井と交渉する必要がある。
彼は高圧的な態度で威圧しつつ、不愉快なことがあればすぐに激昂し暴力を振るう。
探索者達から物を盗んだことは認めず拾ったと言い張り、探索者達が欲しがっていることを察して高額で売りつけてくる。
〈言いくるめ〉や〈信用〉に成功するか、よほどうまい理由をつけない限り、嘘にも気づく。
取り押さえようとしたり警察を呼んだりしても、彼は勘がよく、その時冷静であれば抵抗できそうにない場合はその場を離れる。
ピンチになると自分が持っている探索者の大切なものを破壊すると脅す等、とにかく面倒な相手である。
長井は支配血清の効果はほとんどなくなっているが、辰森に付き合うメリットが大きいと考えている。そのため、辰森に命令には従っている。

また、彼は辰森の作った催眠効果を持つ簡易発煙筒を一つ隠し持っている。辰森の命令もあるためよほどの場合でないと使用しないが、
身の危険を感じた場合や警察に捕らえられた場合、挑発されすぎて酷く怒った場合は使用する。
自分をまきこむ形で使用するが、長井は息を止め煙を吸い込まないことで睡眠効果から逃れる。探索者は息を止める長井を確認できる。離れている場合は〈目星〉が必要。
探索者が全員眠ってしまった場合、体を傷つけられ金品を奪われる。

長井のここ2週間ほどの行動について尋ねると、「俺たち(長井と辰森)の計画のためだ」などと答える。
計画については詳しく話さないが、「人類を支配する。辰森の薬ならできる」と話す。
長井は辰森の持つ知識についてはほとんど理解していないが、目的と支配血清の存在は知っていて、協力してやり、いずれ始末して立場を奪ってやろうと思っている。
ただし、彼は辰森が注射するだけであっさり人を即死させる薬を持っていることを知っている。
辰森が「残り1人分しかない」とぼやいていたことを知っており、支配血清の完成後はすぐに注射器を手に取れない状況になるか、薬を使い果たしたところでいずれ裏切ってやろうと考えている。
自分に支配血清を使われているとは思っておらず、その点をうまく推測して気づかせることができれば激怒して辰森を裏切る。
裏切った場合、協力するそぶりを見せる探索者には辰森に関して知っている情報をすべて話す。
※長井を言いくるめるためのヒントとして、操られているような不自然な言動を所々でさせるとよいと思います
※「人を信用したことは無かったが、辰森は出会った瞬間からなぜか信用できた」みたいな感じで

彼から物を取り戻すためには、
おとなしく高値で物を買い取る(〈言いくるめ〉などでおだてることに成功すれば値引きされたり、追加で情報を入手出来たりする)、
うまく騙したり、脅したり、挑発するなどして逃げないようにしたうえで取り押さえたりして取り戻す(長井の恨みを買い不意に襲撃される可能性が出る)、
「お前は利用されている」などと長井の自尊心を刺激して辰森を裏切らせ、探索者は味方のように振る舞う(長井は協力する見返りとして盗んだものを渡してくる)
等が考えられる。

いずれの場合でも、長井とかかわることが無くなりそうであれば、人類を支配する計画や辰森の存在をにおわせ、探索者達が調査を続けるように情報を渡すようにすること。

【辰森を探す】

辰森は町はずれの廃工場に潜んでいる。この場所を突き止めるためには、長井を尾行するか直接場所を聞き出すのが手っ取り早い。
当たりには人影がないため、長井や辰森を目撃した者もいないことになる。聞き込みで長井が町はずれに向かっていることは分かっても、それ以上は分からないだろう。

彼はこの工場で長井に調達させた機材や材料を使って薬を調合している。
彼は外に出ることもなく、ひたすら支配血清の調合に取り組んでいる。あと数日で支配血清は完成し、辰森は徐々に盆町を支配していくだろう。

【辰森との対決】

探索者達と対面した時点で、辰森は探索者達を敵だと断定する。傲慢な口調で愚かな人間どもがかなうと思っているのかなどと罵倒した後に襲い掛かってくる。
辰森は、気づくとヘビの頭とうろこを持つ姿に変わっている。今までの姿は幻だったかのように消えており、今の彼は明らかに人ではない。
ヘビ人間を見てSANチェック 0/1D6
辰森は簡単な発煙筒のようなものをまず投げる。これは勿論、睡眠効果を持つ煙を出すものである。何も対抗せずに吸い込んだ場合はCON30との対抗ロール。
失敗すれば、数時間眠ってしまう。何らかの対策をとっていた場合はその分対抗ロールに使用する値を減らし、息を止めていた場合等は対抗ロールは不要で睡眠しない。
ただし、息を止める等していた場合は戦闘の初めのRで行動できない。ガスマスクなどでうまく行動できた場合は煙で命中率が半分になる程度ですむ。
ヘビ人間である辰森にはこの睡眠効果は効かず、煙の中でも正確に行動できる。煙は1R経過すれば晴れる。

長井が買い出し等に出ていない場合、彼は辰森の隣にいて探索者達と対峙する。しかし、ここが裏切る好機と見た彼は辰森に襲い掛かる。
※「お前、ずっと俺のこと舐めてたよなぁ。死ねオラ!」みたいな感じです
長井の蹴りを人間とは思えない動きで体を曲げ避けた辰森は、気づくとヘビの頭とうろこを持つ姿に変わっており、そのまま長井に噛みつく。人間を死に至らしめる毒薬を注入するのだ。
長井はこの毒薬の存在を知っていたが、まさか噛みつかれて注入されるとは思ってもいなかった。噛みつかれた長井は少しもがいた後すぐに動かなくなる。直ちに病院に運び込まなければ死亡する。
長井が探索者達の味方をしている場合でも、彼は息を止めたまま煙をものともせず突っ込んでいくが同じように毒薬を注入される。

長井がいない場合は、探索者がこの毒薬の犠牲になることになる。煙の中からの辰森の噛みつきは自動で命中する。〈回避〉を行うことは可能。
噛みつかれた探索者は気絶し、戦闘終了後直ちに救急車を呼ぶなどして病院に等で適切な手当てを受けなければ死亡する。〈医学〉に成功すれば猶予を伸ばせてもよい。
※探索者の状況に応じて、毒の効果がでるまで数Rかかるようにする、毒の効果を調整するなどバランスを調整してください

【シナリオエンド】

辰森を殺害するなり拘束するなりして止めることができればシナリオクリア。1D6の正気度回復。
辰森を止めることができなかった場合、盆町は徐々にヘビ人間の支配下になっていく。
長井は病院に搬送された場合、一命を取り留めるが体は衰弱し以前の面影はなくなる。周囲に怯えて生きていくことになる。