豊穣の呪い - Cthulhu Scenario Storage|クトゥルフシナリオストレージ

豊穣の呪い

【このシナリオについて】


シナリオ傾向:クローズド、現代
推奨人数:2人~
戦闘:有り
推定プレイ時間:3~4時間
難易度:ふつう
システム:クトゥルフ神話TRPG

【あらすじ】

「加戸村の素敵な自然と共に最高級砂糖を作りませんか? 今なら土地と家がついて100万円で始められます! ローンも可」
街中で農家募集の広告を見かけた探索者は、農家として生きていくことを決意する。
家と土地のローンに縛られた探索者たちは、加戸村で起こった怪異に立ち向かうことになる。

【シナリオについて/舞台設定】

加戸村は田舎にある集落の1つだったが、10年前にある転機が訪れる。
かつて村の象徴であった巨木の枯れ木が、外なる神シュブ=ニグラスの化身である畝の後ろを歩くものの顕現に使われる「化身の木」になったのだ。
現れた畝の後ろを歩くものは村の15歳以下の子供たち10人すべてを飲み込んだ。
そうやって、子供たちを自身の従者・神官である人型の怪物「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」へ変えたのである。
その後、畝の後ろを歩くものは代々村長を務めていた一族の娘である加戸凛を神官とし、村に契約を持ちかけた。
村に豊穣を齎す代わりに、村民が40歳になった時、畝の後ろを歩くものにその身を捧げるというものだ。
強大な力を持つ神話生物を前にした村には選択肢はなく、当時の村長であった加戸亮一は契約を受けいれた。
その後、契約通り村には豊穣がもたらされ、加戸村も40歳を超えた人間を生贄として捧げ続けた。
村長の加戸亮一も例外ではなく、現在は「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」の1人が成り代わっている。
畝の後ろを歩くものは自身が豊穣を齎した畑を神聖なものとしており、一度畑泥棒に盗みを許した加戸村は罰を受けた。
それは、生贄に捧げる村民の年齢を35歳に引き下げるというもので、以来村民は泥棒に敏感になっている。
それでも、人が減れば村外から人を集め、豊穣が約束された村は存続していた。

探索者たちは、村を畝の後ろを歩くものから解放する必要がある。
10人の「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」は異様な力を持ち、畝の後ろを歩くものの完全な僕となっている。
彼らは老人の振りをして枯れ木の周りに潜み、守っている。
元々の加戸村の住民の多くは恐怖により「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」そして畝の後ろを歩くものに従っている。
生贄を増やすため、5年ほど前から移住者を集めているが、移住者たちは畝の後ろを歩くものを知らない。
「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」達は老人に扮している。何故か35歳頃の者たちが夜逃げか何かで消えていて、
元々の村人に老人たち以外は35歳に満たない若者しかいないのは、土地を売って都会に移り住んだからだと、
村長だった加戸亮一に扮する1人の「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」に説明され納得している。
探索者たちは村民を纏め上げ、「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」達に立ち向かうことになる。

このシナリオは、小説「トウモロコシ畑の子供たち」を参考にしています。

【資料】

畝の後ろを歩くもの MM179P
シュブ=ニグラスの化身の一つ。
緑色で、大きな赤い目があり、トウモロコシの皮のにおいをしている。
いくつかの場所で崇拝されている豊穣の神。
畝の後ろを歩くものは必ず「化身の木」を通じて顕現しなければならない。
それは、巨大でねじくれた、薄気味悪く見える枯れ木でなければならない。
STR65 CON125 SIZ97 INT21 POW70 DEX20 HP111 DB+9D6
魔力を付与された武器、火や電気などからのみダメージを受ける。
毎ラウンド1D10のHP回復。
武器
触肢 100% 9D6または組みつき
踏みつけ 85% 9D6
丸のみ 組みつかれていれば自動で命中 死もしくはゴフン・フパージ・シュブ=ニグラスへの変容

ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス MM46P
シュブ=ニグラスの従者であり神官。
畝の後ろを歩くものが生贄を丸ごとのみこみ、大きく変容した姿で「生み出された」ものである。
ほとんど人間と変わらないものや恐ろしい見た目の物など様々で、同じ姿のものは存在しない。
STR11 CON17 SIZ13 INT11 POW17 DEX11 HP12
SANチェック 0/1D4
〈隠れる〉90、〈忍び歩き〉70
かぎ爪 30% 1D6、噛みつき 40% 1D4、突く 20% 1D6
毎ラウンド1D6の回復
《シュブ=ニグラスの招来》、《黒い子山羊の召喚/従属》、《ゴルゴロスのボディ・ワープ》(基本257-258P)
《スペクトラル・ハンターへの変身》(基本265p)、《真紅の輪》(MM46P)

スペクトラル・ハンター MM62P
不可視の2mほどの人型の怪物。自発的な被術者に対して呪文をかけることで生まれる。何かを守るために存在している。
儀式用の道具と結び付けられており、それの周囲1.6kmの地域から出ることができず、破壊されると死亡する。
STR20 CON8 SIZ19 INT13 POW18 DEX11 HP14 DB+1D6
SANチェック 1/1D6+2
はさみ 50% 1D6+DB 噛みつき 30% 3D6
1ポイントの装甲
※自由に不可視化することができ、不可視の場合は彼らへの攻撃の命中率が-[スペクトラル・ハンターのPOW×5]される
※魔力を付与した武器か、呪文でしかダメージを与えることができない
※不可視化して攻撃する場合は、スペクトラル・ハンターの命中率に+20

NPC
加戸 凛 16歳
加戸村の村長を務めていた加戸亮一の孫。
6歳のころに畝の後ろを歩くものに飲み込まれ、「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」に変えられた。
現在は畝の後ろを歩くものの神官として、生贄の儀式などを執り行っている。

加戸 亮一 70歳(小山 隆志 16歳) 
加戸村の村長を務めていた男性。
10年前から、35歳以上の人間はすべて生贄として捧げられており、村長である彼も例外ではなかった。
現在は「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」である小山隆志が呪文で姿を変え村長に成り代わっている。

福井 康 32歳
3年前、農家として加戸村に移住した男性。大柄で、やさし気な印象。
当初は大いに苦労したが、先に移住していた男性の助けもあり、現在は農業も軌道に乗っている。
その男性が突如失踪(35歳になったため生贄とされた)したことが気にかかっている。
自分が世話になった分、新しく村に来た探索者に色々と世話を焼く面倒見の良い性格。

江坂 雅夫 28歳
加戸村で生まれ育った男性。険しい顔つき。
畝の後ろを歩くものが現れ、村の人々を飲み込む姿を見ており、
現在は「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」、そして畝の後ろを歩くものに恐怖により支配されている。
そのため、彼らについて話すことは無いが、犠牲を増やさないようそれとなく移住者に厳しく当たって追い出そうとする。

中尾 圭子 39歳
加戸村で生まれ育った女性。現在は村の外で移住者の募集を行っている。
畝の後ろを歩くものに恐怖から従っていたが、生贄として捧げられることに耐えられず5年前に夜逃げを試みた。
しかし、「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」に発見され失敗した。
その際に激しく命乞いをしたためか、元々そういった思惑があったのかは不明だが、
「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」に移住者を集めてくるよう命じられ、以降は村外で活動している。
自分の身が最も大切で、それ以外はどうでもよいと思っている。
常日頃から脅され従わさせられているせいか、脅しに弱い。

鈴木 亮一 34歳
2年前に加戸村へ移住してきた男性。移住者の中で最年長で、車を所持している。
生贄に捧げられてしまい死亡する。

田中 博之 29歳
1年前に加戸村へ移住してきた男性。
落ち着いた性格。

佐藤 祐樹 24歳
2年前に加戸村へ移住してきた男性。
明るい性格。佐藤と砂糖を掛けたダジャレが得意。

井上 修司 26歳
1年前に加戸村へ移住してきた男性。
村の暮らしがあっていないようで、苦労している。

【ハンドアウト】

シナリオに参加する探索者は、農家になりたいと考えていることが望ましい。
街中で怪しげな農家募集の広告を見つけて興味を持つような、そんな探索者がよいだろう。
最終的に農家になってみようと考えるのであれば、興味を持つ動機はなんでもよい。
基本的な探索、交渉技能の他、戦闘技能が必要になる。
探索者たちは30歳未満である必要がある。生年月日を聞いておくこと。
シナリオ開始時点では2019年11月とする。
※探索者の氏名と生年月日は「村役場」で見つかるノートに記載しておきましょう。
※こちらのノートの日付を調整するのであれば、シナリオ開始時点の日時は調整してもらって構いません

【導入】

11月、探索者たちは、街中で農家を募集する広告を見かける。
「加戸村の素敵な自然と共に最高級砂糖を作りませんか? 今なら30歳未満の方は土地と家がついて100万円で始められます! ローンも可」
という謳い文句で、幾本ものサトウキビが高々と伸びる写真と共に、連絡先として携帯電話の番号が乗っている。

広告に書かれた番号に連絡すると、中尾圭子と名乗る、甲高い声の女性が応じる。
彼女はまくし立てるように「四国の佐戸市の駅前にある佐戸第一ビルで5日後の土曜に13時から説明会をやっている」と話す。
詳しくはその場で話すとしていて、持ち物は身分証明書と印鑑と通帳だと続ける。
彼女に何か質問しても、「いいところですよ」「何も苦労しません」「すぐに稼げます」など都合のいいことしか言わない。

【加戸村と砂糖】

加戸村について調べた場合、人口は50人ほどの畑以外は何もないような、四国にある田舎の村だとわかる。
※内訳は「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」が10人、元々の村の住人が35人、移住者が5人ほど

加戸村の砂糖について調べて場合、四国のとある砂糖工場のHPが見つかる。
加戸村で採れるサトウキビは、和千盆(わせんぼん)と言う10年ほど前から販売されている高級砂糖に加工されることが分かる。
和千盆はまろやかでくちどけの良い味わいかつ、ほかにない深みときめ細かさがあるといわれている白砂糖。
きめ細かさも有名な高級砂糖「和三盆」と似た名前だが、和三盆の由来は「盆の上で砂糖を三度「研ぐ」」という元々の製法からきていると言われ、
それに対して和千盆はまるで千度研いだかのようなきめ細かさであるとされている。
この情報は説明会でも聞くことができる。

シナリオが進む中で工場を調べようとする探索者がいるかもしれないが、工場で特に見つかる情報はない。
従業員などに話を聞いた場合、
・元々は和三盆を製造していたが、加戸村の村長から声を掛けられ和千盆の製造を始めた
・和三盆の製造と比べ工程が少なく、素晴らしい原料である
等と話す。探索者が熱心に調査を行った場合は、次のことも分かる。
・4年前に加戸村でサトウキビ泥棒が出た。今も犯人は見つかっていない。人が死んだかのような剣幕で犯人を捜していた
・飯島という30後半くらいの男が村長の代わりによく来ていたが、それ以来見ていない
※飯島は4年前に生贄に捧げられたため。村人たちに話を聞いても、「村から出て行った」と答えるのみ

〈図書館〉や〈コンピュータ〉に成功した場合は、15年前、10年前、5年前の加戸村に関するニュース記事を見つける。
・15年前の記事
「スーパーサトウキビ誕生」という見出しで、加戸村がサトウキビの品種改良に成功したという内容。
繊細な品種で栽培の難易度は高いが、上質な甘みを持った砂糖になるという。
サトウキビを囲む100人ほどの村人たちの笑顔の写真も掲載されている。村人たちは高齢者が中心。

・10年前の記事
加戸村のサトウキビ農業が軌道に乗ったという記事。土壌の改善が功を奏したという。
サトウキビを囲む30人ほどの村人たちの写真が掲載されているが、高齢者の姿が見えない。

・4年前の記事
加戸村にサトウキビ泥棒が現れたが、犯人は見つかっていないという小さな記事。

【説明会】

指定された日時に佐戸第一ビルに向かうと、ビルの一室で加戸村移住希望者への説明会が行われているとわかる。
会場は20席ほどの会議室で、部屋の前方にはホワイトボードと小さな机が置かれており、女性が1人準備を行っているようである。
彼女が中尾圭子で、探索者たちに気づくと甲高い声で嬉し気に挨拶し、席に着くよう促す。
ここで〈目星〉や〈医学〉に成功すると、彼女の歩き方がやや拙いことに気づく。
〈医学〉に成功していた場合は、更に、それが過去に右足を怪我したためだろうことにも気づく。
彼女に話を聞いた場合、それ以上のことは頑なに話そうとしない。説明会の時間だといって逃げられる。
※4年前、村から逃げようとしてスペクトラル・ハンターにつけられた傷です

※中尾は移住希望者たちに半ばだましていた(いずれ生贄になる)ことがばれた際に、
「自分も知らなかった」と逃げるため、村出身であること等はすべて隠そうとします
着席すると安そうなペットボトルの緑茶と資料、ビニール袋に入ったクッキーを手渡される。
クッキーについて尋ねると、加戸村特産のサトウキビから作られる砂糖「和千盆」の手作りクッキーだと答える。
今まで食べたどのクッキーよりも上品な甘みで、非常においしい。
資料には加戸村の地理や農産物、移住する場合の土地・建物について記されている。
広告の謳い文句通り、100万円あれば移住できるほか、借金も可能なようだ。

時間になると、「それでは説明を始めさせていただきます」と中尾が切り出し、説明会が始まる。
「加戸村の農家人口は減少傾向にあるとともに、農家の高齢化も進んでおり、農業における労働力確保が課題となっています。
一方、都市部では所謂"都会疲れ"などともいわれる時代で、都市部から離れた農業への関心は高いと見られます。
そこで、農業に関心のある方々に加戸村へ農家として移住していただき、持続的に農業、ひいては加戸村の発展に貢献していただきたいのです」
などと早口で話し、以降も制度や概要の説明があるが質問は受け付けない空気で進められる。
「住環境も大変良いです。豊かな自然はもちろんのこと、家屋も数年前まで使用されていたもので、村の者による手入れも行き届いています」
「サトウキビを栽培していただく土地ですが、すでに耕された農地を皆様に直接販売することは農地法の都合で不可能です。
ですが、加戸村の土地は農業に非常に適していますから、少しの手間さえかければすぐに農業は軌道に乗ります」
「頭金として百万円をお支払いいただきます。払えない場合はローンも可です。残りはサトウキビ栽培が軌道に乗った後のお支払いです」
一通りの説明を終えると、「希望者の方はこの場で契約していただけます」と締めくくる。
簡単な質問には答えるが、耳障りのいいような、都合のいいことしか答えない。
土地建物の価格について尋ねた場合、2000万円だが利息も無しで数年で返せると話す。

契約した場合、一週間後の2019/12/01に荷物をまとめてこの会議室に集合だと伝えらえる。加戸村までのバスが出るとのこと。
バスは中尾が運転するようで、車内は探索者たちと中尾のみになる。「たった1時間ですから、すぐ町にも出てこれますし田舎とはいえ便利ですよ」と中尾は話す。

【到着】

バスに揺られて1時間、すぐに建物などは見えなくなり、豊かな自然にあふれた光景が広がる。
中尾は何度も移住者を送っているようで、慣れた様子で運転している。
ただ、村に入ったことは無いため、村の詳しい様子は知らないと話す。

そのまま細い道を進み続けると、のどかな村が見えてくる。人の背丈を優に超える、青々としたサトウキビが豊かに育っている。
〈知識〉の半分か〈博物学〉に成功すれば、今(12月)は収穫間近だとわかる。
中尾は村に戻ると生贄に捧げられると考えているため、村から少し離れたところでバスは止まる。昼前頃の到着になる。
中尾にどう頼んでも、それ以上は絶対に近づこうとしない。「景色を楽しんでください」「道が悪くてこれ以上進めない」「排気ガスがサトウキビに悪影響」等とあれやこれやと言い訳をする。
これは、過去に村から逃げ出した際にこの地点で急に追手(スペクトラル・ハンター)が止まったためでもある。詳しくは後述の「スペクトラル・ハンターについて」を参照。

【入村】

村は背の高いサトウキビ畑が多く、全体を見渡すのは難しい。民家がぽつぽつとあり、村の住民は畑仕事に精を出している。
村の中心にはサトウキビ畑が広がっており、その中央には巨大な枯れ木が顔をのぞかせている。
村人にこの枯れ木について尋ねた場合、「ただの昔からあるらしい枯れ木で詳しくは知らない」と話す。ただ、加戸村出身の者に聞いた場合は〈心理学〉などで何か隠していると気づけてもよい。

村に入ってすぐ、30歳頃の険しい顔の男性(江坂雅夫)が「待て! 俺は村の自警団ものだ。何をしに来た!」と話しかけてくる。
加戸村ではサトウキビ泥棒が出ており、江坂は探索者たちを怪しいとにらんで絡んでくる。
畑に無関係の汚れた人間が入り、ましてや盗みを働いたということで、畝の後ろを歩くものも激怒しており、何とか犯人を捕まえようと必死になっているのだ。
移住者だと説明しても、「本当か? 農業に向いているようには見えない」等あれやこれやと難癖をつけてくる。
畝の後ろを歩くものの犠牲になる前に追い出そうとしているのである。
しばらくすると村の若者たち10人ほどが江坂の周りに集まってくる。江坂は彼らも自警団だと話し、怪しいものを持っていないか荷物検査をすると言い始める。
すると、大柄な男性(福井康)が「江坂さん待って待って!」とこちらに駆け寄ってくる。
彼は探索者達と自警団の間に割って入り、「村長さんが今日移住者の方が来るって言ってたし、中尾さんのバスも見えたよ。いい人そうな人たちじゃないか」と江坂にやめるよう言う。
江坂はバツの悪そうな顔をして、「福井さんがそういうなら、分かったよ……」と自警団の面々を連れて引き下がる。
※福井はこの後発狂してしまいますが、探索者たちに「福井を守るため」とモチベーションを上げてもらえるよう、積極的に探索者の助けになってやってください

福井は探索者たちの方に向き直り、「いきなり申し訳ありません。今、サトウキビ泥棒が出たって騒ぎで自警団の方も気が立ってまして……。普段は良い方達なんですが」と謝罪する。
続けて、「移住者の方ですよね? 家まで案内しますよ。私も3年前に来た移住者でね。助け合っていきましょう」と案内を買って出る。

家までの移動中に〈目星〉を行う。成功した探索者は、サトウキビ畑の中からこちらを伺う、フードを被った小柄な人間を見つける。
一見すると老人だが、僅かに見えたその肌は紫色に悍ましく爛れているように感じた。
探索者はそのように嫌悪感を覚える。
※移住者の様子を見に来たゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスです
悍ましい肌を見てSANチェック 0/1
フードの人間は、すぐに畑の中へと姿を消してしまう。追おうとしても行方は分からず、強引に畑に入ろうとすると江坂たちがやってきて止められる。
※どうしても畑に入ろうとする場合は取り押さえられて逮捕か、畝の後ろを歩くものの犠牲になります
福井にフードの人間について尋ねると、「おそらく村のまとめ役の方でしょう。私もほとんどあったことがありませんが、年配の方中心でいろいろやっているようですよ」と答える。
彼らは枯れ木の周りで暮らしているようで、村人たちもほとんど近づこうとしないそうだ。

探索者たちの家は距離はあるものの横並びになっている。家は2階建ての古民家のような見た目。家まで来ると福井が鍵を渡してくる。
何故福井が鍵を持っているか尋ねた場合、家の手入れをしていたと答える。田舎だが皆戸締りはきちんとしているのでしておくとよいと教えてもらえる。
移住者は前の暮らしの感覚から、村出身の者は畝の後ろを歩くものを恐れて鍵をかけているのである。
家具はほぼ無く、電気は通っているが家電の類は置かれていない。最低限寝泊まりができる程度である。
しかし、手入れはきっちりされているようで、埃っぽさなどは一切ない。所々丁寧に補修されているようで、家具さえそろえば快適に過ごせるだろう。
12月で寒い時期だが、囲炉裏があり冬も越せそうである。囲炉裏の使い方が分からない場合、福井が説明してくれる。
最後に、福井はいつのまにか自分の畑から収穫前のサトウキビを少し切って持ってきており、よかったらと味見を進める。
切られた茎からあふれそうになっている果汁を吸うと、草っぽさはなく上品な甘みで、いつまで食べていられそうなほどうまい。
福井は自分の家が隣にあることを伝えると、落ち着いたらここの土地の説明をするからよかったら家に来てくれと言い、帰っていく。
探索者たちに割り当てられた土地は、それぞれ家の裏手にあるようで、広いが土は固そうで、少し手間がかかりそうに見える。

【泥棒探し】

畑泥棒が気になる探索者は、泥棒を探そうとするかもしれない。
その場合は後述の「大サトウキビ畑」を参照。

【農作業】

探索者が購入した土地は広大で、きちんと農地にできれば十分生活できそうな印象である。
探索者たちの当面の目標は、4月ごろのサトウキビの春植えに間に合うよう農地を作ることになる。
家を探したり、福井に相談したりすれば、備中鍬がそれぞれ置かれていることが分かる。
福井は「慣れるとほとんど力を使わずに耕せますよ」と手本を見せてくれる。「おりゃー」と鍬を振り下ろし、「よいしょー」と土をひっくり返し、「ほいほい」と土の塊を砕いていく。
その手並みは見事なものだが、「皆さんすぐにできるようになりますよ」と謙遜する。
「すっぽ抜けたら大変ですから、慣れないうちは腰くらいの高さから振り下ろしてください。時間はいっぱいありますから、少しずつ慣れていきましょう」と使い方をレクチャーする。
土地をしばらく耕したりした後、〈博物学〉〈地質学〉に成功すると、非常に農業に向いている土地になっていると分かる。
害虫の類は一切おらず、長年手入れされていなかったような土地にもかかわらず、栄養も豊富そうで、信じられないほどである。
※畝の後ろを歩くものにより豊作が約束されているためです
しばらくすると、「初めから頑張りすぎると大変ですから、早めに休むといいですよ。よかったら、私の家で鍋でも食べませんか? 採れたての野菜がありますよ」等と福井が誘ってくる。
申し出を受けた場合、おいしい鍋を食べられる。また、福井以外の村への移住者4人(鈴木、田中、佐藤、井上)も食材や飲み物を持って集まってくる。
鈴木は車を所有しており、用事があれば町まで送るから気軽に言ってくれと話す。
また、福井の身の上話を聞くことができる。
・3年前に農家募集の広告を見て移住してきた
・その際にすごく世話になった橘という先輩移住者がいて、自分もその人のようになりたい
・ただ、その先輩移住者はある日ふといなくなってしまった。移住したての人が厳しさのあまり逃げだすことはあるが、そういう理由はなかったはずで、今でも疑問に思っている
等と福井は話す。
中尾が説明した移住の契約については「騙されたとまではいきませんが、それなりに大変ですよ。まあ、がんばるしかないですね。
逃げたら容赦なく取り立てがあるみたいですから、ははは」と明るく話す。

【泥棒騒ぎ】

サトウキビ泥棒に激怒した畝の後ろを歩くものは、一向に泥棒をとられなかった村人に、今後30歳以上の者はすべて生贄にするようにと告げる。
村長を通じてその命令を受けた江坂は、「見回り」と称して福井と鈴木を連れ出しに来る。村出身で30を超えていた者は、逃げ出す勇気もなく従っている。
サトウキビ泥棒そのものは畑の中で畝の後ろを歩くものに殺され見つかることは無い。
日も暮れてきたころに1度〈聞き耳〉を行い、成功すれば人の悲鳴のような声がかすかに聞こえるだろう。

夜、福井の誘いを受けていればその最中に、自警団の面々を引き連れて江坂が訪ねてくる。
心なしか、昼前にあった時よりも辛そうな表情をしているように見える。
〈心理学〉に成功すれば、3名ほどより一層辛そうにしていることが分かる。
江坂は、「加戸村長がサトウキビ泥棒のような人影を見た。今夜は見回りを行うから、福井さん、鈴木さんも来てくれ」と話す。
福井と鈴木は快く応じて、「すみません。行ってきます。また続きやりましょう」と出ていく。
江坂たちに表情のことを聞いても、「泥棒が出たからだ。生活がかかっているからな」とごまかされる。
探索者たちが手伝うと話しても「信頼できる人たちだけでやる」と江坂に断られる。

その後、村人たちが歩く足音以外は何も聞こえない、不気味なほど静かな夜がやってくる。
家でおとなしくしているのであれば、〈聞き耳〉の判定を行う。成功した場合、時折、何者かの悲鳴のような声が聞こえる。
こっそり見回りについていくのであれば、畑の中に潜むか、〈隠れる〉に成功しなければすぐに江坂に見つかり、疑われたうえで家に戻るように言われる。
福井たちについていった場合も、余計な疑いをかけられないうちに戻ったほうがいいと促される。
福井と鈴木は、先ほど一層悲痛な顔をしていた村の住民3名に連れられ、畑の中へと入っていく。
見つからなかった場合、しばらくすると畑の方から何者かの悲鳴が聞こえる。畑からは風が吹いていないにも関わらずサトウキビがざわめいているような音がする。
畑の中にいた場合は、発酵した植物のような臭気と共に、緑色の巨大な何かがすぐ近くを横切ったと感じる。そしてふと周りを見回すと、赤いサッカーボール大の何かが1つ浮かんでいることに気づく。
〈アイデア〉に成功した場合、それが巨大な瞳ではないかと考えてしまう。どちらにせよ、探索者はまるで自分の命が握られているかのような、えもいわれぬ恐怖を感じる。
巨大な何かの存在にSANチェック 1/1D8、〈アイデア〉に成功した場合は1/1D10
そのままそこに居座った場合、探索者の正面に赤いサッカーボール大の何かが幾つも増えていく。
サトウキビのざわめきとともに距離も徐々に縮まり、もはやそれが幾つもの巨大な瞳であることは疑いようがない。
更に探索者が逃げずにその場に残っていた場合、畝の後ろを歩くものに遭遇する。
畝の後ろを歩くものを見てSANチェック 1D10/1D100
遭遇後も逃げようとしなければ、畝の後ろを歩くものとの戦闘。畝の後ろを歩くものは組みつき後丸のみにしてくる。

後日畝の後ろを歩くものの痕跡を探しても、足跡の1つも見つけることはできない。
※このシナリオでは、豊穣を与えることと同じような要領で、自身の足跡もサトウキビで覆い隠しています

【福井の発狂】

福井たちが見回りに出て、悲鳴が聞こえ始めてしばらくすると、適当な探索者の家または福井の扉が激しく叩かれる。
叩いているのは畝の後ろを歩くものに襲われた福井で、扉を開けなかった場合「開けて!!」と必死な声を上げる。
それでも無視し続けた場合、サトウキビ畑から醜悪に絡み合った太く悍ましい蔦のようなものが伸びてきて福井を飲み込み、続けて悲鳴が響く。
※ほぼ起きないと思いますが、無視し続けた場合福井は死亡します。畑に飲み込まれるのを目撃した場合は1/1D8程度のSANチェックを行います。

扉を開けると、全身をぼろぼろにした必死の形相の福井が駆け込んでくる。彼は「助けて!助けて!」と叫びながら家の奥の方まで走っていく。
その場で蹲って「あんなものはあり得ない……」と繰り返し呟きながら震える福井は明らかに正気ではない。
※福井は畝の後ろを歩くものを見て大幅に正気度を失い、不定の狂気にあります
〈精神分析〉に成功するか、数時間経てば会話ができる程度には落ち着く。しかし、福井の容貌はひどくやつれている。
彼はとぎれとぎれに、時折常軌を逸した素振りで頭を掻きながらも以下のことを話す
・畑を鈴木さんと村の人3人の5人で見回っている時、発酵した植物のようなにおいがして、気づくと自分1人になっていた
・悲鳴が聞こえたので振り返ると、鈴木さんが蔦のようなものに掴まれて浮いているのが見えた
・鈴木さんの姿はそのまま何か吸い込まれるように消えて、くぐもった悲鳴が聞こえた
・そのまま逃げて畑の中央にある枯れ木の近くにたどり着いたが、刃物を持った背の高い人のような何かが急に現れて、枯れ木からこちらに向かっていることに気づきまた逃げ出した
「鈴木さんは巨大な何かに丸のみにされたんだ……大きな赤いボールのようなものが浮いていて……あれはきっと目だ。私を狙うように見ていた……ああ……」
と福井は話を締めると、再び何かにおびえるように蹲って震え始める。
※福井の察しがやけに良いのは、狂人の洞察力を発揮しているためとします

しばらくして少し落ち着いた福井は、家を出て鈴木たちを探しに行こうとする。その様子は明らかに無理をしていて、まともに出歩けるとは思えない。
彼は「1人逃げてしまった自分が許せない。責任を取る」と玄関に向かうが、サトウキビ畑を見た瞬間に悲鳴を上げて腰を抜かしてしまう。
探索者におとなしくしておくよう諭されれば、彼はひとまずおとなしくする。
また、今後の探索で村についての話を福井から聞こうとした場合は、震えながらも聞かれたことには答えることができる。
鈴木を救うためになればと、必死に答えてくれるが、ほかの村人以上の情報は持っていない。後述の「村人に話を聞く」を参照。

例え〈精神分析〉に成功して落ち着かせたとしても、依然として正気ではない彼は、皆が寝静まった夜などにサトウキビ畑を燃やそうとする。これは探索者達へのヒントも兼ねたイベントになる。
彼を適切に見張っていれば、夜中に新聞紙とライターを持ち出して、家の近くにあるサトウキビ畑(たいていは福井自身の畑になる)に向かっていることに気づける。
福井はそのままサトウキビに火をつけようとする。しばらくするとサトウキビから煙が上がる。起きているか、眠っていても〈聞き耳〉に成功すれば気づくことができる。
しばらくすると、江坂達が「何をやっているんだ!」と声を荒げながら駆けつけてくる。この騒ぎには眠っていた探索者も目を覚ます。
福井は「ははは! 全部燃やせばよかったんだ! これであいつらは出てこれないぞ!」と更に火を広げようと暴れるが、取り押さえられる。
探索者たちが先に気づいて福井を止めなかった場合、江坂は福井を福井の家に閉じ込め見張るように自警団の何人かに頼む。
泥棒騒ぎが終わるまでの措置だと話す。こうなってしまった場合、福井と会うことは難しくなる。
探索者たちがきちんと騒ぎを収められているか、うまく江坂を納得させられれば、江坂は「しっかりと見張っておいてくれよ」と睨むだけで済ませる。

【スペクトラル・ハンターの襲撃】

福井を生贄として捧げるため、ゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスの1人が変貌した「スペクトラル・ハンター」が現れる。
福井の放火騒ぎの後になるので、探索者達が彼を見張っていれば遭遇することになるだろう。

この時点のスペクトラル・ハンターの目的は、福井を生贄として畝の後ろを歩くものに捧げることである。
福井をこの場で殺害しようとは考えていない。探索者についても、サトウキビを育てる意思があり、畑を穢さない以上殺害は考えない。
そのため、福井が一人ならそのまま連れ去っていき、探索者が福井の近くにいたり守ろうとしたりしている場合は、脅しに探索者を攻撃する。
あくまでも脅しなので、攻撃は はさみ(命中率70(不可視のボーナス含む))で、ダメージはDBなしの1D6とする。命中するまで行われる。

福井の近くにいる探索者は〈聞き耳〉で判定する。成功することで何者かがゆっくりと近づく足音を耳にする。
※スペクトラル・ハンターは非実体になれるため壁等はすり抜けてきますが、接近後は攻撃のため不可視ながらも実体化したこととします
※探索者たちが触れようとすると、非実体になるので触れられませんが、うまく騙すと触れられるかもしれません。皮膚はゴムのような触感です
しばらくすると、その場にいる探索者達全員が、自分の周りを何かが歩いていることがはっきりと分かる。
それは、じっくりと、まるで舌なめずりをしているかのように、じわじわと探索者たちに近づいてくる。そして、突如攻撃を行う。
攻撃された探索者は突然、体が鋭く切り裂かれることになる。
不可視の何かに攻撃されてSANチェック 0/1D4、攻撃された探索者は1/1D6
攻撃が命中しても探索者が態度を変えない場合は、スペクトラル・ハンターはどこかに去る。これは、毎晩行われる。
福井が連れ去られた場合、彼はそのまま生贄として捧げられ死亡する。

傷跡を調べる場合は〈医学〉。成功した場合は、鋭く巨大なはさみのようなものによる傷だと分かる。
スペクトラル・ハンターの痕跡を調べる場合は、〈追跡〉や〈目星〉。成功すると、2足の何かが、福井の周辺を歩いていたことが分かる。
〈追跡〉に成功していた場合は、その足跡は鋭いかぎ爪と水かきのようなものがついた足によるものだと分かる。
それ以外の個所には足跡などの痕跡は一切無い。まるで突然現れ突然消えたかのように感じる。

【スペクトラル・ハンターについて】

このスペクトラル・ハンターは、ゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスの1人である内木 志保が、畝の後ろを歩くものの化身の木(村中央の枯れ木)を守るため変貌した姿である。
儀式には彼女がゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスになる前に大切にしていた洋人形が使われており、これは化身の木の近くに置かれている。
普段はこの人形の中におり、有事の際は姿を現すのだ。
中尾圭子が逃げ出した際も彼女を追い、足に傷をつけたが、人形から大きく離れることができない(1.6kmまで)ため中尾をとらえたのは別のゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスだった。

【村の探索】

加戸村は背の高いサトウキビが多く見通しは悪いが、決して広い村ではない。
村をぐるっと回れば、古びて今も使われていないようだが、小さな社と村役場があることに気づく。
それぞれの詳細は後述の「社」「村役場」を参照。


【村人に話を聞く】

村人たちからは以下のことが聞ける。移住者と加戸村出身の村人で聞ける内容は異なる。

■加戸村出身の村人
・社について
この村独自の信仰があったが、今は廃れていて社も使われていない。
爺さんたちの代の話なので詳しくは知らない。

・村役場について
もう少し村人が多かったときは使用されていたが、今は使われていない。
村長が時折出入りしている。

・枯れ木について
生まれたころから枯れ木だった。
昔は葉を青々と茂らせた立派な木だったと爺さん婆さんがよく言っていた。
※枯れ木については、畝の後ろを歩くものがこれを通して姿を見せることも知っていますが、命が懸かっていると考えているので決して話そうとしません。
※〈心理学〉に成功すれば何か隠していることは分かります

・中尾圭子について
そんな人は知らない。
※〈心理学〉に成功すれば何か隠していることは分かります。
※うまく聞き出すことができれば元々彼女が村人だったことを話します。隠していたい理由については、「色々トラブルがあった」とごまかします。

・江坂雅夫について
正義感が強く頼りがいのある人だ。

・生贄に捧げられた村人について
都会のほうに行った。
※〈心理学〉に成功すれば何か隠していることは分かります。

■移住者(福井、田中、佐藤、井上)
・社について
今は使われていないようで詳しくは分からない。一度行ってみたが思っていたより綺麗だった。
誰かが手入れしているのかもしれない。

・村役場について
今は使われていないようだ。何か困ったことがあれば江坂さんに話せば村長まで話を持って行ってうまくやってくれる。

・枯れ木について
枯れ木の周りに村の老人たちが住んでいるようだ。村の人からは不用意に近づくなとくぎを刺されている。
なぜかは分からないが、江坂さんが厳しく止めてくるので近づいたことは無い。

・江坂雅夫について
元々の村民には頼られているようだが、よそ者には厳しい。あの人のせいで出て行った人もいる。
それでも村に残った人には農作業を教えてくれたりと、最低限は助けてくれるのであまり文句も言えない。

【社】

この社は、かつて化身の木が枯れ木ではなかったころに樹木崇拝のようなものが行われていた名残である。
葉を茂らせた木が彫られており、ある程度社を調べればそのことが分かるだろう。
村人たちはこの社には近づかないが、不思議と綺麗で何者かが手入れしているようである。
興味を持って調べれば、毎日手入れされていることが分かるだろう。

夜に見張っていると、江坂がこの社を手入れしに現れる。
問い詰めても、「意味はない」「暇だっただけだ」などと苦しい言い訳をしてごまかそうとする。

江坂は、畝の後ろを歩くものが現れる以前にこの社のことを祖父から聞いており、枯れ木から現れる畝の後ろを歩くものへの対抗心からこの社の手入れを隠れて行っている。
効果があるとは思えずとも、何か行動せずにはいられなかったのである。
畝の後ろを歩くものを知る他の村人たちは恐怖から社を避けるか、信仰のことを知らず興味も持たないため、社が手入れされていることには気づいていない。

【村役場】

古びた小さな木製の建物で、現在は使用されていないのか誰もいない。
中には受付のようなスペースと、その先に事務室と、村長の執務室がある。
・事務室
机がいくつか並んでおり、かつてはここで事務作業が行われていたことが分かる。
書類や資料などもそのまま残っているが、特別気になるようなものはない。
村に関する情報で探索者が気になるものがあればここで入手できてもよい。
15年前、村おこしのために新種のサトウキビを完成させたことも分かる。

・執務室
本棚や机があり、村長の執務室であっただろうことが伺える。
埃などの積もり具合から、時折使用されていることが分かる。〈目星〉や〈追跡〉に成功すれば、ごく最近も人が立ちいったことが分かるだろう。
机の上には開かれたままのノートが置かれている。急いで記載されていたようだ。
※急遽生贄が決まったので、慌てて記載されている
他に何か気になるものがないかと探せば、ゴミ箱の中に1枚だけ入っている紙切れが見つかる。日記の1ページがちぎられたものだと感じる。
ノートと日記はそれぞれ筆跡が異なる。

■ノート
村人と思われる人間の名前と、日付が書かれている。

加戸 亮一 1949/03/08 2009/08/01
加戸 凛 2003/01/18
加戸 公正 1969/11/28 2009/08/01
加戸 肖美 1971/12/05 2011/12/05
・・・省略・・・
内貴 英次 1945/02/22 2009/08/01
内貴 利恵 1946/07/13 2009/08/01
内貴 幹和 1973/06/25 2013/06/25
内貴 基子 1980/06/12 2015/09/08
内貴 和浩 2003/09/23 
内貴 史帆 2007/07/15
・・・省略・・・
小山 善博 1950/12/10 2009/08/01
小山 美鈴 1951/08/04 2009/08/01
小山 暁代 1979/02/18 2015/09/08
小山 明徳 1985/11/15 2019/12/01
小山 隆志 2003/04/05
・・・省略・・・
脇田 幹明 1965/01/20 2009/08/01
長野 康毅 1994/03/25
山喜 昌範 1992/02/09
中尾 圭子 1980/09/03 2015/09/08
江坂 雅夫 1991/05/17
江坂 翔太 2000/12/06
・・・省略・・・
橘  勝成 1983/10/10 2018/10/10
・・・省略・・・
福井 康  1987/07/05 2019/12/01
鈴木 亮一 1985/03/22 2019/12/01
田中 博之 1990/01/02
佐藤 祐樹 1995/10/10 
井上 修司 1993/09/05
・・・省略・・・
[ここに探索者たちの名前と生年月日を入れる]

これは、村長である加戸亮一に扮する小山隆志が生贄を管理するために使用している台帳である。
昨日(2019/12/01)急遽生贄にする年齢が35歳に引き下げられたため、急ぎで追記して、そのまま置き忘れられている。

1つ目の日付が生年月日で、2つ目の日付が生贄として捧げられるべき日付である。
中尾圭子・福井康を除いて、2つ目の日付が記載されている人物で生きている人間はいない
このままでは意味不明だと思われるので、軽く推理してもらった後、大まかに以下のことを読み取れるよう、〈アイデア〉等を振ってもらいフォローすること。
※印はKP情報。
・基本的には、2つ目の日付は40歳、または35歳の誕生日になっている
・2009/08/01に何かが起きた 
※畝の後ろを歩くものと契約が成立し、40歳以上の村人が生贄に捧げられた日です
・2015/09/08に何かが起きた
※畑に泥棒が入り、生贄に捧げる年齢が35歳に引き下げられた日です
※元々の村人にこのころの出来事について聞いた場合、答えにくそうにするが、「泥棒があった」と話す
・2019/12/01に何かが起きた
※畑に泥棒が入り、生贄に捧げる年齢が30歳に引き下げられた日です
・中尾圭子(説明会を開催していた女性)の名前がある
・橘  勝成(福井の恩人)の名前がある

以上のことから、なんとなくだがある程度の年齢以上の人間は姿を消している、ということが伝わればよい。

■日記の切れ端
8月1日
あの恐ろしい怪物との契約は受け入れることにした。
村長としての最後の仕事が怪物に村を売り渡すこととは思いもよらなかった。
反対するものはいないだろう。あのような悍ましい光景を見せられては、何かをする気力は湧きようがない。
あの時の皆の悲鳴が耳から離れない。この村は終わりだ。
※子供たちが畝の後ろを歩くものに飲み込まれ、ゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスに変えられた光景を指しています

【大サトウキビ畑】


村の中央にあるサトウキビ畑を調べることは困難である。
中に入ろうとするところを村人にみられるとすぐに飛んできて止められる。江坂達もすぐに駆けつけてくる。
中に入ったとしても、背丈を優に超える、鬱蒼と茂ったサトウキビは方向感覚を惑わせ、目印になりそうな枯れ木や民家も、畑に入るとサトウキビに隠れてみることができない。
道具を使ったり、〈ナビゲート〉に成功した場合でも、しばらくすると同じところをぐるぐると回っていることに気づく。
※畝の後ろを歩くものに認められていない場合、その力の一端で枯れ木にたどり着くことはできなくなっていることとします。
※この村で数年間作物を育て収穫した人間は畝の後ろを歩くものに認められていることにします。
この村の中央にある大サトウキビ畑をしばらく歩いた探索者は、〈アイデア〉で判定する。
成功した場合、この畑には害虫どころか雑草の1つも生えていないことに気づく。

更にしばらく探索を続けた場合、ふと、足元に靴が片方落ちていることに気づく。それはローカットの、畑に入るにはひどく向かなさそうな靴だが、汚れは少なくつい最近まで履かれていたことが分かる。
※つい最近畑に盗みに入った男が、畝の後ろを歩くものに捕らえられた際に脱げた靴です
その横には、1つだけ、巨大な生き物の足跡のような大きなくぼみが残っている。
ここで〈アイデア〉で判定する。成功すると、自分はここに誘導されたのではないか、これは警告なのではないか、この靴の持ち主はもうこの世にはいないのではないか、と想像してしまう。
恐ろしい想像をしてしまいSANチェック 0/1
失敗した場合は嫌な予感がするのみになる。さらに探索を続けようとした場合、畝の後ろを歩くものが現れ探索者を飲み込もうとする。

仮に畑を燃やそうとした場合、この大サトウキビ畑のサトウキビは、ほとんど火がつかないことが分かる。
水分を多量に含んでいるのか、ほかの理由があるのか、とにかく燃やすことは容易ではない。

【中尾圭子から話を聞く】

元村民である中尾圭子からは、加戸村の人々が隠して話さない事実を聞き出すことができる。
ゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスに監視されている村人達と違い、話しても自分が死ぬことは無いと考えているのだ。
ただし、単純に聞くだけではもちろん答えない。上手く交渉するか、脅す必要がある。中尾は長らくおびえて過ごしてきたせいか、脅しに弱い。

中尾に連絡を取った場合、探索者たちが先日村に移住した人間だと気づけば、適当にあしらわれてすぐに会話を切られる。
中尾は移住者を集めるため毎日移住希望者向けの説明会を開催しているので、これをうまく利用して会うとよいだろう。
※想定外に生贄が多く出たため、ゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラス達から移住者をさらに集めるよう命令されており、いつもより忙しくしています

中尾から話を聞くことができた場合、次のことが分かる。
その他にも、村人が知りうることはたいてい知っていて話す。
・10年前、村の中央にあった枯れ木から突然巨大な化け物が現れた
・化け物は村の子供たち10人を飲み込むと、グロテスクな人型の何かに変えた
・村長の孫も飲み込まれ、姿が変わった後は神官として村に契約を迫ってきた
・契約は村に豊穣を齎す代わりに、40歳以上の人間を生贄として捧げろというもの
・一度、畑に泥棒が入ったことがあり、畝の後ろを歩くものの怒りを買って生贄の年齢が35歳以上の人間になった
・35歳になる少し前に村から逃げ出したが、背の高い何かに追われて、足を切られた
・背の高い何かは村の外に出たところで追ってこなくなったが、変貌した子供たちに捕まった
・必死に命乞いをしたところ、村の外から移住者を集めてくる役割をもらった
話す中で記憶がよみがえってきたのか、中尾は頭を押さえながら、子供たちが飲み込まれた光景を語りだす。
「凛ちゃんはきっと何も理解していないままで、和浩君は逃げ出したところを、史帆ちゃんはいつも持っている人形を抱きしめたまま、
翔太君はおびえてお兄ちゃんの雅夫さんにしがみついたところを引きはがされて、皆一飲みにされていった……。
なんの面影もない悍ましい姿になって、あの化け物に従って私たちが逃げ出さないように見張っていて……ああ……」
ここまで話しきると、知っていることは話したと言い中尾は疲れたようにへたり込む。
中尾を責めた場合、「死にたくなかったから」等と話す。

【江坂の説得】

畝の後ろを歩くものとゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラス達に立ち向かうためには、加戸村の村人たちの力を借りる必要がある。
大サトウキビ畑の中心にある枯れ木(化身の木)までたどり着くためには村人の助けが必要であり、
更に枯れ木を守る10体のゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスの相手は探索者のみでは厳しいだろう。
村人の協力を取り付けるには、自警団を取りまとめている江坂を説得するとよい。
村人たちは畝の後ろを歩くものへの立ち向かう勇気は無いが、江坂に説得されれば従う。
探索者たちが江坂を説得することを思いつかない場合は、江坂から適当な難癖をつけて探索者に絡ませるなど、誘導するとよいだろう。

江坂は畝の後ろを歩くものへの反抗心を残してはいるが、恐怖も大いに持っており、簡単な説得には応じない。
江坂を説得する際には、
・村人が生贄に捧げられていること
・江坂が社を手入れしていること
・中尾圭子の役割
などの情報を踏まえて、すべて知ったうえで立ち向かう姿勢を見せる必要がある。
情報が一部不足している場合でも、技能やRPで補えれば説得できていいだろう。

江坂を説得できた場合、彼は村を取り戻すと誓い、探索者達に今までの非礼を詫びる。
村人たちにも「探索者達に勇気づけられた」「このままではいけない」「家族を思い出せ」「村を取り戻すぞ」などと声をかけて説得して回る。

また、江坂が知っている村に関する情報も聞けば答える。
彼は「中尾圭子から話を聞く」にある畝の後ろを歩くものが現れた際の話に加えて、畝の後ろを歩くものが必ず畑の中央にある枯れ木から現れることを知っている。
スペクトラル・ハンターの存在も知っており、刃物を持った見えない何かがいる話す。
そして、化け物の神官(ゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラス)が仲間のうち1体を呪文のようなものを唱えて見えない何かに変えたところを隠れてみていたと話す。
はさみのような腕をした黒い人型の生物に形を変えたそれは、姿を消しながらその場にあった洋人形の中に消えていったという。
一連の儀式をみていた江坂は、あの洋人形が見えない化け物の核ではないかと考えている。

ゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスたちが元々村の子供だったことについて聞いた場合は、この10年間で彼らが元の人間ではないことは十分すぎるほどわかっており、もし敵対しても躊躇いは無いと悲しげに答える。

【クライマックス】

村を畝の後ろを歩くものの支配から解放するためには、畝の後ろを歩くものが村に顕現するために使用する、サトウキビ畑の中央にある枯れ木(化身の木)を破壊する必要がある。
火をつけたり、切り倒すなどするとよいだろう。江坂もこの考えに同意するし、探索者たちが言い出さなければ自分から切り倒そうと言い出す。
その他、化身の木を破壊できるような手立てであれば江坂は賛成する。
ただし、「急がないとあの化け物(畝の後ろを歩くもの)が出てくる」とも話し、時間がかかる案には賛成しない。
例えば、燃やすならガソリン等を使ったり、木を切り倒すならチェーンソーを使って、倒れる方向も気にせず一気に切り倒したり、といったスピードを重視した案でないと賛成しない。

化身の木までは江坂をはじめとした村人たちの案内に従えばたどり着くことができる。
枯れ木の周辺は広い空き地なっていて、おどろおどろしく捻じれた枯れた巨木が中央に生えている。
枯れ木の近くには大きな十字架のようなものが3本立っており、それぞれに死体が磔にされている。
2体は既に白骨化しており、1体はまだ新しいように見えるが、切り取られたサトウキビが口が裂けるほどに詰め込まれており、辺りにはどこか甘ったるい腐臭が漂っている。
※この死体は畑泥棒たちのものです
探索者たちが枯れ木のある空き地にたどり着くと、枯れ木の影から1人のゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスが村長の姿(70歳ほどの老人)で現れる。
彼は探索者たちに向けて「何もせず戻り、すべて忘れなさい」と話す。これは探索者たちを枯れ木から離すための方便で、彼らは探索者と江坂達を殺すと既に決めている。
従わなかった場合は、9体のゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラス、1体のスペクトラル・ハンターが襲い掛かってくる。
「あたりに幾つもの人影が射した。その容貌は皆異なるが、どれも人とはかけ離れていた。焼け爛れたような皮膚とそこに浮かぶ冒涜的な色合いは、見るだけで吐き気を催す。
一際目立つのは、2mほど真っ黒な肌の怪物だ。目は大きくて赤く、幅の広い口の中にはサメのような歯がびっしりと浮かんでいて、体をのたうち回る人のような姿勢で固めたまま、僅かに宙に浮いて奇妙な笑みを浮かべている。
腕にははさみのようなかぎ爪がついていて、それはあなた達を切り裂いたものに違いない。それらは枯れ木を守るようにして、あなた達に襲い掛かってきた」
※スペクトラル・ハンターが姿を現すのは少しでも枯れ木から注意をそらすためである
江坂からスペクトラル・ハンターの話を聞いていた探索者は、スペクトラル・ハンター(真っ黒な肌の怪物)が枯れ木から少し離れたところにある木製の台座に置かれた洋人形から現れたことに気づく。
この洋人形を破壊した場合、スペクトラル・ハンターは消え去る。
化け物の群れを見てSANチェック 1D4/1D10
枯れ木には黒い歪が生まれ、恐ろしい何かが現れようとしている。3R以内に枯れ木をなんとかできなかった場合、畝の後ろを歩くものが現れ戦闘に加わる。
江坂達がいる場合、彼らは集団でゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラス達の足止めを行う。
化身の木に向かう探索者の前には、1体のゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスとスペクトラル・ハンターが立ちふさがる。
彼らは化身の木を守るように動いており、彼らを倒すか何とか隙を作らない限り、化身の木に手を出すことはできないだろう。
※スペクトラル・ハンターは、自身の宿る人形よりも化身の木を守ることを優先します

化身の木を破壊することができた場合、現れていた黒い歪は小さくなっていき、ゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラス達は慌ててその中に飛び込んでいく。
彼らは狂信的で、例え化身の木が火に包まれていたとしても、それをものともせず黒い歪に飛び込み姿を消す。
これは畝の後ろを歩くもののねぐらに通じており、彼らはそこで奉仕を続ける。探索者が足止めするなどして間に合わなかった場合は、悍ましい悲鳴を上げながら体を崩れさせていく。
※畝の後ろを歩くものが現れるR数や探索者たちが相手をするゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスの数は、探索者たちの数やステータスによって調整してください
※畝の後ろを歩くものが現れることなくクリアできるようなバランスになることを想定しています
※万が一畝の後ろを歩くものが顕現してしまった場合でも、化身の木を破壊することができれば、畝の後ろを歩くものも含めてその場から消えていきます

化身の木を破壊することができればシナリオエンド。

【シナリオエンド】

村の中心にあるサトウキビ畑には今までなかった雑草が早くも少し顔を見せており、約束された豊穣はもはや無くなったのだと感じる。
しかし、村人たちは活気に満ちており、いいサトウキビを育てるぞと意気込んでいる。
畑泥棒の死体の他、村人の失踪などは、すべて村長の犯行だということで話が進んでいく。
探索者たちの借金が無くなるわけではないが、今後もこの村で一人前の農家を目指して暮らしていけるだろう。
シナリオクリアで1D10の正気度回復。福井が生存している場合は追加で1D6の正気度回復。